5日目 5時間遅れの列車

目が覚めると列車の中。降りる駅はバナーラス近くにあるムガルサライ駅だが、まだなかなか着きそうにない。朝からチャイ(インドの甘い紅茶)を売るおじさんやらが「チャーイ」と大きな声を張り上げてながら歩いていたり、まわりのインド人がざわついたりしていたので目が覚めた。

チャイのおじさんは2人いて、だいたい5分おきにやって来る。たのむ人はそんなにいるわけではないが、商売熱心である。僕も1杯買ってみる。8ルピーだった。魔法瓶に入っているお茶を紙コップに入れて渡されたが、熱くて飲めない。

7時半くらいになって周りにいたインド人がだいたい降りた。隣にいる外人の団体はまだ降りない。その人達は同じムガルサライ駅で降りるのだろう。ムガルサライの到着時刻は7時40分のはずだが、その時刻になっても駅に着く気配は無かった。

周りの席が空になったので、そちらに移動してだらだらする。イヤホンで音楽を聞きながら窓の外を眺めていたら、列車内を掃除する係の人がやって来て、僕の隣に座った。彼のジェスチャーを見ると、どうやら僕が今イヤホンで聞いている音楽を聞いてみたい、ということらしい。イヤホンを貸してあげたところ、音量が小さくて聞き取れなかったのか、ちょっと渋い顔をしてイヤホンを返された。その後掃除のおじさんは自分の携帯用オーディオプレイヤー(WINGと刻印されたもの)を出して、僕のイヤホンをそこにつなげた。どうやら代わりにインドの音楽を聞かせてやる、ということなのだろう。そして、おじさんは様々なインド音楽を聞かせてくれた。これらの音楽の中には動画もあって、オーディオプレーヤーの小さな画面には、インド人が歌って踊っていたり、ドラマの1場面のようなものもあった。おじさんは英語がGoodという単語しかわからないので、こちらが黙っていると次の曲にまわしてくれ、Goodと言うとその曲を最後まで聞かせてくれたりした。

そんなおじさんを隣に、音楽を2時間くらい聞いていると、ムガルサライ駅に到着した。5時間遅れての到着である。おじさんに礼をいい、荷物を持って列車を降りる。予想通り、隣の外人の団体もここで降りていた。駅のホームには手配済みのタクシーの運転手が待っており、その人に連れられてバナーラスの宿まで向かう。

車に乗って駅を出ると、ろくに舗装されていない道路になった。砂埃が舞っている。道をそのまま走って行くとやがて大きな河にかかる橋が見えてきた。対岸にはこの橋を渡るのだ。そして、対岸には大きな街が見えてきた。その街がバナーラス、その前にある河こそがガンジス河、ガンガーである。ついにここまでやって来たのだ。

バナーラス側の河辺には石造りの階段が造られており、その上には所狭しと建物が並んでいる。一方、ムガルサライ駅側(東側)のほうの河辺は何もない砂地である。タクシーの運転手曰く、ガンガーの東側は穢れたところで、建物は建てられていないそうだ。橋の上を走る自動車からそんな景色を眺めていると、やがて橋を渡り終わり、バナーラス市街に入っていった。

バナーラス市内は大渋滞であった。普通の乗用車だけでなく、オートリクシャー、サイクルリクシャー、通行人、その他もろもろで大混雑であり、地面が見えないほど。バナーラスの人口は100万らしいので、先進国なら何らかの公共交通機関があってもおかしくはない。しかしインドにはせいぜいバスくらいしかないのである。大渋滞になるのも仕方のないことかもしれない。インドの都市はくさい(動物のウンコとか)、汚い(ゴミが散乱)、うるさい(渋滞)と三拍子そろった、まるで都市問題の見本のようなものなのだ。

我々の乗る車は、途中警察にチップを渡して交通規制のある通りに入りながら、ホテルの近くまでやってきた。この後は運転手が我々の目指すホテルの人に電話をかけてくれて、ホテルの人が車まで迎えに来てくれることになった。目指すホテル(正確に言えばゲストハウス)は車で入れるところにはないらしい。しばらくしてホテルの人がやってきた。なぜかこのホテルの人に日本人旅行者もついて来ていた。ホテルに宿泊していたが、散歩がてら迎えについて来た、とのこと。運転手に礼を言った後、迎えの人についていく。複雑な路地を何度かまがり、やがて到着した。大混雑の表通りに比べてだいぶん静かである。しかし、ホテルに到着した時は本当に安堵した。バナーラスの街中の大渋滞と人の波を見ると、とてもたどり着ける気がしなかったのである。

ホテルはガンガーのすぐ近くにあり、歩いて50mほど。聖河に行きたくなったらいつでも行ける。また、屋上に登れば静かにガンガーを拝むことができ、レストランもあるので食事はそこで済ませられる。アーグラーでの疲れを癒すにはもってこいの環境である。旅を進めず引きこもりたくなりそうだ。4人部屋をたのんで3泊することに。

ホテルのレストランで昼食を食べた後、しばらく休んで、夕方になってガンガーへ向かう。この旅の最大の目的は、ガンガーをこの目で見ることである。いよいよだ。路地を何度か曲がるとガンガーが見えてきた。ガートと呼ばれる、河に向かって造られた階段状の構造物の上に立ち、ガンガーを眺める。近くから見るガンガーは少し緑がかった暗い色をしていた。ぱっと見るとそこまで汚そうでもない。河にはたくさんのボートが浮かび、河岸にはインド人が歩いている。時間帯のせいか、沐浴する人はあまり見られない。

夕方のガンガー

ガートの上で写真を撮っていると、1人のインド人が近づいてきた。彼はいくらか日本語が話せるようで、自分は日本人との交遊があり、日本語を勉強しているのだ、という。大学生とのことである。後から考えると実にうさんくさい自己紹介でったが、我々は彼と会話を交わすうちに、成り行きで彼の親族が営んでいる店に連れて行ってもらうことになった。その店はシルクやらお茶などが売れていて、日本人観光客もいた。幸いにして、そこまで悪質な店というわけでもなかったようで、特に何か買わせようとしてきたわけではなかった。僕は250ルピーでシヴァ神のマークのついたTシャツを買った。

店を出た後は、そのインドの日本語が喋れる大学生に連れられてバナーラスでやっているお祭りを見に行った。すっかり日がくれて暗くなっていたが、河辺には多くの人が集まり、祈りをささげている。他にも見物人が多数いて写真をとっていた。ガンガーのほとりで彼らはいったい何を祈っているのだろうか。

祈りを捧げる人々。人の密度がすごい
舟の上にだって人はいる

その後は大学生の案内人にレストランを紹介してもらい、そこで夕食を食べる。その後はホテルに戻ってゆっくり休む。あと2日は移動しなくてもいいと考えると気が楽である。

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