1.よいリリースとは何か
・よいリリース
2.悪いリリースとは何か
・舌で息を止める
・音高が下がる
・音が乱れる
・オクターブが下がる
・音が終わる前に指を変える
3.3要素の統合
・ロングトーン・トレーニング
・ロングトーンの弊害
さて、今まで音をアタック・コア・リリースの3つの要素に分解して解説してきましたが、この3つ目のリリースが最もないがしろにされがちです。しかし、音の後処理という行為は大変地味ですが、演奏の印象をガラッと変えるほどに重要なものなのです。さらに言えば、3つの要素の中で最も掴みどころがなく、最も難しく、最も奥深い要素でもあります。
今までの話でリリースに関することはひとつお伝えしました。「音の終わりを舌で止めてはいけない」というものです。詳しくは前述しましたのでそちらを参考にしていただいて、これからも続けてください。今回はさらに踏み込んだ話をしていきます。
今回も単刀直入に言うと、よいリリースとは印象に残らないリリースです。違和感のないリリースとも言うことができます。
どういうことかと言うと、聴く人に不自然だと感じさせなければよいのです。
あまりイメージが湧かないと思うので、実際に上手いリリースの演奏を聴いてみましょう。アルゼンチンのケーナ奏者Jorge Cumboによる演奏です。一音一音のリリースに注目して聞いてみてください。
どのようなリリースだと言えるでしょうか。なかなか言語化が難しいです。このあたりにリリースがないがしろにされる原因があるのでしょう。
スッと消えるという表現がよいかと思います。音が自然と収束に向かい、なにも残すこともなく、まるで水たまりが自然と乾いて消えていくような、そんなリリースを目指す必要があります。
ここでよくないリリースの映像を例にあげるととても分かりやすいのですが、角が立つので止めます。よいリリースはあまり確立されていない分野ですので各々開拓してほしいところですが、悪いリリースの典型例がいくつかあるので紹介します。
再三話している通り舌で息を止めてはいけません。ではどこで止めるかと言うと、腹で止めます。
試しに、「うー」と声に出し、自然と声を止めてみてください。そのとき舌で口の出口を塞ぐことも、腹を大きく動かすこともしていないでしょう。ただ、呼気を吐き出す腹の動きがスッと止まるのです。この状態をイメージしてリリースを実践してください。
前回話したように音は吹いているとだんだんと息のスピードが遅くなって音高が下がります。そのため、音高が下がらないように腹で支えなければいけません。コアが過ぎてリリースになっても同じです。音が消えるまで同じ音高を維持し続け、尻すぼみにならないようにしましょう。
リリースで音が終わる直前にプッとさいごっぺのように音を出してしまう人がいます。これは呼吸に余裕がなく、音の終わりを無理やりひねり出してしまうことに由来しています。よいリリースで終わるためには、しっかりと腹式呼吸を鍛えて余裕をもって音を終えることが必要です。
特に高音のリリースにおいて最後息のスピードを落とすとき、一瞬オクターブ下の音が出てしまうことがあります。気を付けましょう。
リリースで音が消えきる前にフライングで次の音の指に変えてしまう人がいます。すると一瞬プワッという変な音が出ます。運指はアタックとタイミングを合わせましょう。
以上が悪いリリースの典型例です。他にも違和感を感じるようであったらそれは悪いリリースです。丁寧に丁寧に吹きましょう。
さて、アタック・コア・リリースの3要素を一つ一つ確認し終えることができました。この3つを統合しながら鍛えてみましょう。
「ロングトーン」というトレーニングは管楽器で広く行われているトレーニングです。簡単に言うと一つの音を長い間伸ばすトレーニングのことです。しかし、悲しいことにこのトレーニングはあまりに形式化されてしまったが故に、目的がはっきりせずただなんとなく行われることが多いです。しかし、トレーニングは何かしらの目的意識が無ければ上達には結びつきません。ロングトーンの目的を確認してから始めてみましょう。
ロングトーンの第一の目的は安定したコアを手に入れることです。ひとつの音をただ伸ばして吹き、その音が安定しているか常にチェックしましょう。そして、ついでにリリースもこだわることで、コアとリリースをまとめて鍛えることができます。
ひとつのロングトーンのやり方を記しておきます。
①最も出しやすい音を8拍心の中で数えて伸ばします。
②4拍分休みます。
③今出した音の1音上で同じことをします。
④以上を繰り返します。
⑤終わったら下るパターンも行います。
ロングトーンを最低音のソから始める人がいますが、おすすめできません。出しやすい音から始め、その出しやすさを記憶したまま徐々に音をずらして感覚をなじませていくことで、出しやすい音の幅が広がっていきます。最低音のソというのは案外出しにくいもので、そこから始めてもあまり発展は見込めません。
困ったことに日本の音楽界、特に吹奏楽界にはロングトーンの信者と呼ぶべきような人がうじゃうじゃといます。ロングトーンさえやっておけば上手くなると思っています。しかし、何も考えずにロングトーンを行うと実は下手になります。
前回、よいコアにはよいアタックが必要であるという話をしました。しかし、前述のような人々はそのことを知りません(というよりもただ時間をかけて練習すれば自然と良くなると思っているお気楽者です)。そのため、ロングトーンでは音の中身だけに注目し、アタックには注意を向けません。それによって発生する弊害は2つです。
ひとつは、ヘロヘロとした音になります。中身ばかりに注目していると、なるべく音を長く伸ばせることが偉いように錯覚して、息を温存するためにゆっくりとした息で吹くようになります。しかしそのような吹き方での音はとてもか細く、たいていの場合震えてしまっています。たとえ震えないように調節できたとしても、芯が無く聞きごたえのある音ではありません。
もうひとつは、後押しの癖がつきます。後押しとは、音が徐々に立ち上がるとても気持ちの悪いアタックのことです。アタックを鍛えないと自然と後押しになります。また、弱い息で音を始めるのでさらに拍車をかけて後押しになります。
本来は勢いよく音を始めてしまえばよいだけですし、ただ音を長く伸ばせることに意味はありません。よい音を長く伸ばせることに意味があるのです。ロングトーンとアタックのトレーニングはバランスよく行いましょう。