1.装飾音とはなにか
2.装飾音の種類
・プラルトリラー
・モルデント
・ターン
・グリッサンド
・トリル
・前打音
・ずりあげ
3.装飾音の使い方
・装飾音は最低限で
・形式を学ぶ
装飾音はその名の通り旋律の音に飾りをつける技法のことです。ケーナの演奏ではメロディの音のアタックに装飾を付けることが多いです。
一曲例をあげてみます。Mallku de los AndesのLejaníasです。
メロディが1オクターブ上がって繰り返されるところでシの前に装飾音が付けられていることが分かるかと思います。このようなものを装飾音と呼びます。
しかし、どこまでが旋律でありどこまでが補助的な装飾音であるかの区別ははっきりしません。クラシック音楽などの楽譜で表記されるような音楽であれば楽譜上で装飾音符としてはっきり区別されるのですが、フォルクローレのような作曲者が楽譜を出版しない音楽ではその区別は曖昧になります。
とはいえ、装飾音はある程度形式化され、フォルクローレの演奏においてもその形式の中から選択された装飾音が用いられます。形式を知ることで形式美を備えた演奏をすることができます。
プラルトリラーはある音のアタックである音とその2度上の音を短い間に1回か2回行き来する装飾音です。「ミー」という音であれば「ミファ#ミー」または「ミファ#ミファ#ミー」というふうに演奏します。しばしばトリルと呼ばれますが正しくはプラルトリラーです。ケーナの演奏では頻繁に使用されます。
モルデントはプラルトリラーとは反対に、ある音とその2度下を行き来する装飾音です。ケーナの演奏ではあまり用いられないです。
ターンはプラルトリラーとモルデントを組み合わせたような装飾音で、通常はある音の2度上を吹き、もとの音に戻って2度下を吹いてからもとの音に戻ります。「ミー」でターンを行うと「ファ#ミレミー」というふうになります。反対に下から始めてあとで上るターンは転回ターンと言います。(「レミファ#ミー」)
グリッサンドはある2つの音の間を滑らせるようにして演奏する装飾音です。「ミーシー」という2つの音の間にグリッサンドを入れると「ミファ#ソラシー」というふうになります。ケーナの演奏ではしばしば用いられます。ポルタメントという似た概念もありますがややこしいのでここでは割愛します。
トリルはある音とその2度上の音を震えるように細かく行き来する装飾音のことです。「ミー」という音にトリルをつけると「ミファ#ミファ#ミファ#ミファ#ミファ#ミファ#……」というふうになります。行き来する間隔は一定にしたりだんだん細かくしたりします。ケーナの演奏ではまれに用いられます。
前打音はある音の前に短く異なる音を付ける装飾音です。たいていは2度下の音を付します。「ミー」であれば「レミー」というふうになります。前打音のアタックが拍頭に来るのか前打音が前に出てもとの音のアタックが拍頭に来るのかの区別が大切です。伸ばす長さなどによって細かい区分がありますが割愛します。ケーナの演奏ではよく用いられます。
ずりあげは前打音の一種と区分すべき装飾音で、ある音の2度下の音から滑らせるようにしてもとの音に上がる装飾音です。歌の「しゃくり」のような技法です。Lucho Cavourがしばしば用いて、日本のケーナ世界で頻繁に使用されています。そのため、この装飾音を多用するといかにも日本らしい演奏であるという印象を与えます。良いか悪いかは各々判断していただきたいところですが、あまりおすすめはしません。
装飾音は使いすぎてはいけません。装飾音は使えば使うほどけばけばしい印象を与えます。メロディが隠れてしまうほどのたくさんの装飾音を使えば作曲者が表現しようとした美しい旋律は消え失せ、聴衆に「この人は一体何がしたいんだ?」という疑問を抱かせることになります。演奏している本人は楽しいのかもしれませんが、聴衆を置いてけぼりにするようなエゴイスティックな演奏はよい演奏とは言えません。
また、たくさん装飾音を用いることはたいていのケーナの曲と合いません。ケーナにどのようなイメージを持つかは人それぞれですが、少なくとも装飾音だらけのけばけばしい演奏をするための笛とは言えないでしょう。たくさん装飾音を入れることに新たなケーナの在り方を見出そうとしている人も見かけますが、成功しているかと言えば微妙です。
「たくさん装飾音を使った派手な演奏がよい演奏」「ちまたで超絶技巧と呼ばれるようなとにかく早く指を動かす演奏がよい演奏」などという幼稚極まりない考えはどぶ川に捨てましょう。
また、たくさん装飾音を使わないにしても、「そこにそれはないだろう」と思わせるような装飾音もあります。
どのようなときにどのような装飾音を入れるべきかはすでに形式化されています。自分勝手に装飾音を使うのではなく、まずは先人たちが築いた形式を学びましょう。
形式を学ぶにはよい演奏の装飾音を真似るのがよいでしょう。巨匠の演奏を耳コピするとき、彼らがどのように装飾音を入れているかを注意深く聴いて真似してください。そうすればどのようなタイミングでにのような装飾音を入れるべきかが自然と分かるようになっていきます。形式を学んで形式美を備えたよい演奏をしましょう。
そう言うと「俺は形式に囚われない演奏がしたいんだ!」「形式に囚われていては新たな創造性のある音楽が生まれない!」と主張する人が出てくると思いますが、形式を破るには形式を知る必要があります。ごく一部の人間が形式すら超越した領域から天才的な音楽を創造することができることは事実です。しかし、たいていの形式を学ばず自分勝手に作った音楽は他人からしてみればただのノイズです。
しっかりと形式を学んでから自分らしい演奏を探求しましょう。