1.ビブラートとはなにか
・ビブラートの現状
・ビブラートとは
・ビブラートのかけ方
・ビブラートの原理
・ヒント
2.よくないビブラート
・わざとらしいビブラート
・不均衡なビブラート
・音の前進感を殺すビブラート
・途中で消えるビブラート
・よいビブラートを作る
3.ちりめんビブラート
4.まとめ
5.さまざまなビブラート
ビブラートについてご存知でしょうか。「音を揺らす」ことによって表現をつける技法のことです。管楽器に限らず弦楽器や声楽など音楽世界全般で広く行われているため、知っている人も多くイメージもしやすいかと思います。
しかし、あまりに広く行われているためビブラートには様々な個人の考えや流派があり、情報が錯綜している状態にあります。
ビブラートのことを知ろうと思えばまずインターネットで検索するかと思いますが、インターネット上のビブラートに関する情報には互いに矛盾する情報が多く散見されます。また、インターネット上のサイトのような個人的な領域だけでなく、日本の吹奏楽部での教育現場などでもあまり適切ではないビブラートの理論が跋扈しています。
しかし、「みんな違ってみんないい」なんて生ぬるいことを言うつもりはありません。いくらさまざまなビブラートがあると言っても、やはり適切なビブラートと適切でないビブラートは存在しています。よいビブラートを目指して様々検討してみましょう。
ビブラートは「音を揺らす」技法であると理解されがちですが、音の何を揺らすのでしょうか。
以下の曲を聞きながら考えてみてください。WARAのDesde la Paz He Venidoです。歌とケーナの両方のビブラートに注目してみてください。
何が揺れているかわかりましたか?
正解を言うと、ビブラートは「音高」を揺らす、つまりある音に対してちょっと低い音とちょっと高い音を波のように行き来する技法です。
裏返せば、ビブラートは音高以外を変化させる技法ではありません。
よくある間違いの一つは「音の大きさ」を揺らすビブラートです。強い息による大きな音と弱い息による小さい音を交互に吹く方法です。強い息ではやや音高が上がり、弱い息ではやや音高が下がるので一応「音高」も揺らすことには成功しているのですが、出たり引っ込んだりする感じがなんとも言えない気持ち悪さを醸し出します。音の大きさは変化させずに音高だけを変化させましょう。
では、どのようにすればビブラートをできるようになるのでしょうか。
実はビブラートをできるようになるトレーニングというのものはすべきではありません。
ビブラートは自然とできるようになるのです。
ビブラートの原動力は腹式呼吸と感情の2つです。
まず、ビブラートは腹の支えによって実現されます(のどで行うものもありますが詳細は後述)。音高の根本的なコントロールは腹によって行います。単に音を吹く以上のことを行うので十分に成熟した腹式呼吸が必要です。
次に、ビブラートには感情が必要です。唐突な精神論に戸惑っているかと思いますが受け容れてください。
叫んだり嗚咽したりした経験があるかと思いますが、そのようなとき電子音のような一定の声を出す人はいません。誰しも感情が張り裂けそうになると震えた声が出ます。そうしたものを原点としたビブラートはとても素晴らしいものになります。
自然な感情表現の延長としてビブラートを行いましょう(むしろビブラートはこのような人間の自然な感情表現を音楽に落とし込んだものであるとも言えます)。
つまり、成熟した腹式呼吸を使いつつ「俺の魂の叫びを聞いてくれよ!」と強く思いながら曲を練習していれば自然とビブラートはかかります。息の量がどうとかアパチュアとの距離がどうとか細かいことは考えず、昂った感情を使ってビブラートをかけましょう。
とはいえ以上の説明だけでビブラートまで辿り着くのは難しいと思いますので、ヒントをお伝えします。
大きく息を吸って「あー」と声を出してみてください。そして声を出しながらみぞおちに指を突き立てて連打してください。すると、「あー」という声が震えるかと思います。これでもうあなたはビブラートができています。今のことを指なしですればよいのです。指なしでもできます。嘘じゃありません。
よくないビブラートの例を見ていきます。
今までかなり抽象的な説明をしてきましたが、それはこの「わざとらしいビブラート」を避けるためです。「わざとらしいビブラート」は「機械的なビブラート」とも言えます。つまり、感情を材料とせずに作ったビブラートのことです。
ビブラートのトレーニングは実際にはたくさんあります。もっとも代表的なものが、ある音のロングトーンを行い、ちょっと音高を下げてちょっと音高を上げてを繰り返しその幅を短くしていくことでビブラートを作るというトレーニングです。フルート世界でよく行われますが、ケーナでは全く適切とは言えません。
以上のような理屈で作ったビブラートは整いすぎていてフォルクローレの音楽性と合致しません。ケーナでクラシックの曲を吹くのならよいかもしれませんが、フォルクローレらしいメロディにこのようなビブラートをかけると違和感を生じさせます。ケーナにはもっと内側から湧いて出るようなビブラートをかけるべきなのです。
不均衡とは、音高が上がるときと音高が下がるときにかける時間が異なるということです。そのようなビブラートではどっちか一方の方向に引っ張られるような感覚になってメロディの流れを阻害してしまいます。音高が上がるときと下がるときにかける時間は同じになるようにしましょう。 また、このようなビブラートをする人はビブラートの捉え方に問題があります。ビブラートはアクセントの連続ではなく小川のような緩やかな波として捉えましょう。
ビブラートはあくまで音の装飾にすぎません。しばしば音が前に進む力を消して、息のエネルギーがすべてビブラートに向かってしまっているような人がいます。音の前進感はそのままで、その流れにのるようなビブラートをかけましょう。
ビブラートをかけるのであれば最後までかけましょう。反対に途中からかかるビブラートは賛否両論あります。
以上がよろしくないビブラートの一部ですが、前述の通り世界には様々なビブラートが存在するため、ある世界ではよくないとされるビブラートが違う世界ではよしとされることが往々にしてあります。波の振幅や間隔、かけるタイミングなどは人それぞれです。
しかし、明らかにダサいビブラートというものが存在しているのも事実です。どのようなビブラートがよいビブラートかという分別はたくさんよい演奏を聴くことで培われます。たくさんよい演奏を聴いて自分らしいセンスのあるビブラートを作ってください。
以上の説明は腹を使ったビブラートについてでした。世界にはもう一つのどを使ったビブラートも存在しています。のどを使ったビブラートはちりめんビブラートと呼ばれます。
やり方は人によって異なるのですが、のどぼとけのあたりを震わせて行うのが一般的です。
このちりめんビブラートは管楽器世界では基本タブーとされます。しかし、ケーナ奏者に限っては使用している人が特に古い年代でよく見受けられます。
私個人としてはちりめんビブラートはケーナらしさが出て好きなのですが、好まない人が多いのも事実です。使うかどうかはお任せします。感情に任せてビブラートを作っていて自然とちりめんビブラートになったらそのまま使う、というのが妥協点でしょうか......
とはいえ、腹のビブラートができていない状態でちりめんビブラートを行うと腹式呼吸が疎かになります。どのケーナ奏者のちりめんビブラートも成熟した腹式呼吸に裏打ちされていることは間違いありません。まずは腹のビブラートから行うのがよいでしょう。
また、いくらちりめんと言ってものどをきつく閉めすぎてはいけません。のどを閉めすぎると雑音が混じりますし、のどを痛めます。ちりめんはのどが閉まっていながらものどをすりぬけるような爽快感が感じられるように行いましょう。
※追記 Favreに関してはちりめんじゃない気もしてきました。腹の力が強すぎて普通のビブラートが圧縮された結果とも見えます。
以上お話ししたように、ビブラートは演奏者の感情をそのまま反映させる技法です。そのため、ビブラートをかけることでその演奏を聴衆の感情を揺さぶるような人間らしさに溢れたものにすることができます。
ビブラートの性質上なかなか理解と実践が難しい説明となってしまいましたが、腹式呼吸と感情を意識し続ければ必ずビブラートはかかります。めげずにがんばってください。
ビブラートがいつでも勝手にかかってしまうというのはあまり好ましくはありませんが、しばらくは常にビブラートをかけて演奏することを意識してみてください。
世の中には多様なビブラートが存在します。その一端を覗いてみましょう。
また、ビブラートはかければよいというものではありません。ノンビブラートの音楽もお楽しみください。