息の余裕を作る

基礎編
目次

1.いわゆる「酸欠」について

・いわゆる「酸欠」とは

・いわゆる「酸欠」の改善

2.旋律中で息を吸う

・旋律を吹きながらたくさんの息を吸うトレーニング

3.アパチュアを整える

・アパチュアを狭める

・アパチュアを狭めるトレーニング

・肺活量について

1.いわゆる「酸欠」について

さて、曲の練習は捗っていますでしょうか。曲の練習と並行して技術的にも研鑽を積んでいきましょう。

いわゆる「酸欠」とは

曲を練習しているとだんだん頭がくらくらとして気持ち悪くなるかと思います。この現象は一般に「酸欠」と呼ばれます。しかし、管楽器の演奏程度で酸素が不足することはありませんので、実際には「過呼吸」に近い現象です。いずれにせよこれは適切な吹き方を行えていないことを表しています。

いわゆる「酸欠」はなぜ起こるのでしょうか。

肺の中の空気が空の状態を0、満タンの状態を100とします。上級者は40から100の間で演奏し、滅多に息を使い切ることはありません。ここぞというところだけで40以下の空気を使います。対して初心者は0から70の間で演奏してしまい、事あるごとに息を使い切ってしまいます

0から10のあたりは呼吸法のトレーニングで行ったように、肺に残るかすかな空気を絞り出している苦しい状態です。この苦しい状態を曲中で何回も繰り返すことによっていわゆる「酸欠」になってしまいます

では単純に、息を使い切らないように息をあまり使わず温存しながら吹けばよいかというと、そうではありません。変に息の量を節約して吹くとその音に対して適切な息のスピードを出すことができず、ヘロヘロとした酒焼けしたキジの鳴き声のような音になります(リンク ) 。むしろ目いっぱい息を吸い、目いっぱい息を吐いて練習することは呼吸法を習得する上でとても重要です。いわゆる「酸欠」を忌むことなくたくさん息を使って練習してください。

いわゆる「酸欠」の改善

とはいえ、いつまでもいわゆる「酸欠」状態でいるわけにもいきません。たくさん息を使う練習をしつつ、たくさん息を使わないで済む練習もしていかなくてはなりません

なぜ事あるごとに息を使い切ってしまうのでしょうか。

ひとつは吸気の最大量が乏しい、つまりたくさんの息を吸えていないことが考えられます。呼吸法のトレーニングでは肺いっぱいに息を吸えていたとしても、それを曲中で行うことは難しいです。旋律を吹きながら息を吸う練習をすることで、曲中であっても息の最大量を70から100に引き上げることができます。

もうひとつは息の消費スピードが早い、つまり息を効率的に使えていないということが考えられます。少ない息の量でよい音を出す練習をすることによって、息の消費量を押さえ、常に余裕をもって吹くことができるようになります。

2.旋律中で息を吸う

旋律を吹きながらたくさんの息を吸うトレーニング

まず、今一度呼吸法のページに戻って「呼吸法のトレーニング2」を行い、息を肺いっぱいに吸ったときの感覚を思い出してください。

次に、何かしらの旋律を演奏します。フォルクローレの曲でもきらきら星でもゆっくりめの曲であればなんでも結構です。

このとき息継ぎで全体のテンポが乱れないように注意しながら最大まで息を吸います。ブレスの直前の音をギリギリまで伸ばすようにしてください。メトロノームを使いながら行うとよいです。

3.アパチュアを整える

アパチュアを狭める

息を効率的に使えていないということは、ある音に対して適切な量以上の息の量を使っているということです。つまり、本当はもっと少ない息の量で音が出るのに必要以上に使いすぎてしまっているということです

そもそも、音を出すことには息の量はさほど重要ではありません。重要なのは息のスピードです。ある音に対して適切な息のスピードを出すことができれば息の量はさほどの問題にはなりません。よって、少ない息の量で早いスピードの息を出すことができればよいということになります。

どのようにして息のスピードを早くすればよいのでしょうか。

水が出ているホースがあるとします。このとき、親指と人差し指で水がギリギリ出なくならないようにホースの先端をつぶします。すると、水の勢いがつぶす前に比べて格段に上昇していることが分かります。流体は出口を狭めることでスピードが上がるのです(流体の流速と配管の断面積の関係について詳しく知りたい方は近くの工学部機械・航空宇宙工学科所属の人に尋ねてください)。

同様に、アパチュアを狭めることで息のスピードも格段に上昇します

試しに、近くに管楽器経験者がいるのならば、その人のアパチュアの前に手をかざしてみてください。そして、自分のアパチュアの前にも手をかざしてみて、その違いを感じてみてください。経験者は息のスピードが格段に早く、またよく見るとアパチュアが自分のそれよりも狭いはずです。

アパチュアを狭めるトレーニング

自分のアパチュアの5 cmほど前に手のひらをかざします。そしてケーナを吹くときのように息を吹きます。このとき、なるべく息が広がらず、一点に当たるようにしてください。空気の針が手のひらに当っているイメージです。

このトレーニングはどこでも行うことができます。吹いた息が固形のように感じられるまで根気強く続けてください。

肺活量について

息の効率化という話に関連して、「肺活量」についても話しておきます。

しばしばケーナを吹いていて息が続かないときに「肺活量が足りない」と表現することがあります。しかし、これはあまり正確ではありません。

肺活量は息を最大限吸い込んだ後に吐き出せる空気量を指します。前述の通り重要なのは息の量ではなく息のスピードですので、たとえ肺活量が少なくても効率的に息を使うことによって肺活量の少なさは補うことができます。

男性の標準的な肺活量は4000-4500 mL、女性は3000-4000 mLと、女性の方が肺活量は少ない傾向にありますが、息の効率化によって女性でも男性に負けないほどのパワフルな音色を出すことは可能です。

まとめ

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