ー「弔い」の果てに、憩いのひとときー


帝都の春は、のどかに香っていた。

あの日の事件も、いつの間にか街の喧騒に埋もれようとしている。

自然と人々の中から、その記憶が薄れていく。

しかし、その痕跡は痛々しいほどに残っている。

小夜のメモリーデータは、誰かの手に渡ることはなかった。

調査を終えたそれは、探偵の元へと送られ、物語の結末を委ねられることとなった。

手の中の小さな記憶装置は何も語らず、自らに課せられた終幕を静かに待っていた。

小夜は確かに、そこに在った。

その存在は、美しすぎたのだ。

失われた今でも、ある人の心には鮮烈なまでに色濃く残り、乱れ、狂い咲いている。

自動人形に心を奪われた男は、陽の光も届かぬ暗い部屋で、虚空に向かってその名を小さく呼び続けている。

もうどこにもいない、死んでしまった小夜を、孤独に求めながら――

彼の「憩い」は、すでに失われていた。

一方、自動人形の技術に可能性を見出した男は、激しく怒り狂った。

小夜という、技術の結晶は、日の目を見ることもなく、闇に葬られてしまった。

彼が願った未来は、もはや訪れない。

だが――

その“技術”にではなく、“人間”らしさに目を向けた者がいた。

彼女を、機械としてではなく、一人の少女として弔おうとする者が。


小さな墓石の前で、手を合わせる。

果たしてそれが意味のある行為なのか、彼女にとって救いとなるのか。

それを知る術は、どこにもない。

死んでしまった者は、もう何も語らないのだから。

けれど――

それでも、ふと感じてしまう。

この埋葬を、彼女は喜んでいるのではないかと。

それがただのエゴだとしても、人の心には、そう思いたくなる何かがある。



――もしも、生命なき自動人形に「死」を見出したのだとしたら。

人が死後の天国を夢見るように、その「死」の先にも、苦しみから解き放たれた穏やかな「憩い」があるのだろう。


美しい少女は、何も語らない。

そのはずだった。

けれど、どこからか――鈴を転がすような、澄んだ声が聞こえた気がした。



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