事件の真相・動機・背景

今回の事件を紐解くうえで、最も重要になるのは、証拠品「メモリーデータ」である。


破損していたメモリーの内容を復元するとこのようになる。


メモリーデータの内容

ここで大切な情報は最後の二行


破壊された原因はモップで殴られた衝撃による頭部欠損であるため、大きな声を聞いたうえで頭部に強い衝撃を感知したことがわかる。


この情報を読むことで、小夜に保存された大きな声の時間を特定すれば、犯行時間を大きく絞り込めるのではないかと考えられる。


そこで大きな声として最初に想起されるのは女給が仲裁に入っていた庭園での喧嘩である。


ここで世界観を説明したスタッフが渡したマップを思い出してほしい。


会場図

マップで重要な情報は内倉庫・社交場・庭園口の関係性だ。


女給の証言によると叫び声は社交場には聞こえていなかったとのことである。


つまり、庭園から社交場よりも遠い位置にある内倉庫はもちろん聞こえていない。


よって小夜のメモリーデータに残された大きな声というのはこの叫び声ではないことが分かる。


では、小夜のメモリーデータに保存されていた「大きな声」とは、いったい何の音だったのでしょうか。


好事家の新聞記事の内容を思い出すと答えがわかる。


情報整理シート

「音声の識別は不得手であると開発者の好事家は語る」とある。


音声の識別が不得意とは何を表していたのだろうか。


プロローグにこのような会話があるのを思い出してほしい。


(好事家)「ただいま、小夜。よく帰ってきたのがわかったね」

(小夜)「はい。扉の方からお声が聞こえましたのと、外出先からのご帰宅予想時間より、 確率的にそれが貴方であると判断しました。」

(好事家)「ん?私の独り言が聞こえていたかい?扉から離れていたし、そこまで大きな声ではなかったと思ったんだけどね。」


この発言から好事家は大きな声で話していないのに、声が聞こえた。


つまり小夜は何かの音を聞き間違えたことが分かる。それは扉の鍵を開ける音・開閉音だったのだ。


小夜は「声」と「音」を正確に識別できないという特性が、このエピソードから明らかになる。


これにより大きな声とは大きな音として考えることができる。


それでは大きな音とは何だろうか。


会場にオルゴールが流れていたことを覚えているだろうか。


女給の証言によると、途中で一度大きな音が流れ、そのあとオルゴールの故障が確認されたのが分かる。


マップを確認すると大型オルゴールは小夜の内倉庫の裏の社交場に取り付けられている。


会場全体に響いた故障による騒音はもちろん裏の内倉庫にも聞こえていることだろう。


つまり、メモリーデータに記録された「大きな声」は、故障したオルゴールの騒音だったのだ。


つまり犯行はリハーサルの開始時以降(=20:00以降)であることが分かる。


情報整理シート

よって、20:00以降にアリバイのないオーナーと、20:30にアリバイのない女給の二人に容疑が絞られる。


それでは真の犯人はどちらなのだろう。


最初のホテルのスタッフの発言を思い浮かべよう。


スタッフは事件の発生経緯を説明する際、


「30分ほど劇場スタッフが舞台裏を閉鎖して、壊れていた舞台装置の修理をしており、修理のために外倉庫から部品を持ってきて、取り外したものを置くために舞台裏の内倉庫に行ったところ、小夜が壊されているのを発見しました」


という発言があった。


会場図

小夜のいる内倉庫への道は舞台裏を通らずにはいけないため、30分程犯行不可能な時間がある。


その時間はいつなのであろうか?


資本家によると、


「お披露目会の予定直前までずっと作業をしていて、スタッフが荷物をもって廊下を通っているのを見た」


という発言がある。


この二つの情報がつながっていることに気づけると、お披露目開始直前の21:00の30分前から作業をしていたことが分かり、20:30-21:00には犯行不可能であることが分かる。


また、別の観点からも犯人を絞ることが出来る。


犯人は小夜のメモリーデータを奪ったあとに社交場の棚の中にしまう必要がある。


スタッフは、事件発覚後に部屋の移動を禁止したと述べていたため、犯人は19:00-21:00までの間に社交場に足を踏み入れていないといけないことになる。


しかし、女給は今回の事件中社交場の入り口付近には行っても、社交場の中に入ったことはない。


よって社交場の棚にしまうことは不可能であり、したがって、犯人はこの条件を満たすただ一人。


真犯人はカフェのオーナ―だったのである。


物語の背景

凶器について


今回の犯行にはモップが使われた。これは誰でも使える身近な道具であり、女給に疑いが向くように仕向けた――オーナーの策略だったのだ。


待機命令の出されている小夜は抵抗をしないため、凶器らしい凶器でなくても破壊ができたのである。

モップ

人形神の逸話について


この物語は小夜という存在に魅力を感じたが故に狂気に囚われてしまった人たちの物語である。


この証拠品はキャラクターの背景を示す資料であり、登場人物それぞれの視点で異なる解釈が可能な証拠品でもある。


・好事家

彼が人形神である小夜を作成したことにより、彼の願っていた憩いを手に入れたこと・それと同時に小夜に狂気的な程の愛を抱えていることを示す。


・女給

小夜を見たすぎるがあまりに、お披露目会の前に見に行こうとしたりする異常な行動(狂気的な行動)の示唆。


・オーナー

人形神のマイナスな部分の伝承を知り、好事家が小夜の狂気に飲まれるのを防ぐためとして破壊を行った。

小夜を破壊する自分への言い訳としてこれを自身に言い聞かせていた。


・資本家

資本家が人形神を信仰しているという情報。

しかし、彼は人形神に心酔しているわけではなく、あくまで信仰の一種・願掛けとしてとり入れているだけなのである。

事業に成功した理由が自身の手腕であると発言することは感じが悪いと考えたため、このような発言をした。

彼は小夜の資本的価値に魅入られ狂気に囚われている。

人形神

証拠品「オーナーの噂」について

オーナーの真の本性「すべての人を見下すことで自尊心を満たす」が現れた噂。

オーナ―の今回の事件への動機を表す。

登場人物の女給はオーナーを擁護しているが、本性は噂話の通りである。

オーナーの噂

証拠品「メモリーデータ」について

オーナーは小夜のメモリーデータを破壊したうえで、棚の間にしまった。

それはメモリーデータに蓄積されるデータを読み取られて自身が犯人であることが特定されることを恐れ、また好事家が小夜を復元させないと知っていたからである。

また、メモリーデータをその場に残してしまうと、小夜のメモリー破壊が目的であることが発覚すると不都合だが、かといってカフェ周辺で処分すれば自分が疑われてしまう。

そのため人が活発に出入りする場所に隠し、万一ばれたとしてもしまった人が誰なのか分からなくしようとしていた。

メモリーデータについて

シナリオタイトルについて

自動人形の憩いは小夜の後で ~ディレッタントは絡繰り仕掛けの夢を見る~


この題名には一つの問いかけが込められている。


それは


「心が存在するか分からない自動人形にも、“死”という概念を見出せるのだとしたら、死のその先にあるものは何だろうか?」


人は、死の先に天国や安らぎを夢見ることがある。


では、感情があるのか、魂があるのか分からない自動人形には、死のあとに何かあるのだろうか?


もし死後に何かがあるとするなら何があるのだろうか?


皆が自動人形に求めた憩い。死後であったとしても自動人形にも憩いがあってほしい。


そのようなこの物語特有の独善的な考えをシナリオ作者が抱えていることを伝えたかったのだ。




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