道は交わらない
作者:守里 桐(@kiri_ragadoon)
原作:人知らず(@Hitosirazu456)
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「もう一つ気になっているだろう、サイト64の現状についても説明しようか。もともと、このサイト64はこの街の平和を守るため、もっと単純に言えば『ロッソファミリーを監視するため』に本部から分かたれた支部。ロッソファミリーが姿を消したことで、このサイトはお役御免になったというわけ。本当ならもっと早くに伝達が行っていたはずなのだけど、何か不具合があったのかな?」
「さあ。自分は何も」
「おおよそこちらのミスだろうね。伝達の内容だけここで伝えておこうか。本部からの伝達は大きく分けて二つ。一つ、サイト64は解体とし、職員は他サイトへの異動、エージェントはフリーランスとする。一つ、突然の契約解除のため、エージェントには一定の手当てが支払われる」
「契約解除、ですか」
これはかなり痛い。自分で次の雇用口を探す必要があるからだ。たたき上げでここまで成り上がった自分に、上へつながる伝手はない。さあ困った。
「心配はいらないよ。今回の働きを見て、サイトのボスが君を本部に推薦した。優先的に仕事を回してくれるはず」
「! 本当ですか」
「こんな嘘つかないよ。ボスの評価を裏切らないために、これからも励みなさい」
「はい。ありがとうございます」
こちらの返事に満足そうに頷いた男は、最後のファイルを棚から下ろした。
「うんうん。大分片付いた。ありがとう。棚の片付けはこちらでやるから大丈夫。付き合わせてしまって悪かったね」
「いいえ。こちらこそありがとうございました。これからもよろしくお願いします」
一礼してサイト64を後にした。
結局サイト64での収穫はなく、もう少し経てばこのサイトですら無かったものになる。ロッソファミリーの上層部は軒並み蒸発し、行方知れずだ。こうなってしまえば、もう彼らと自分の道が交わることはないだろう。ただ一つ気がかりなのは、あの令嬢が現在どうなっているのかだ。身体を改造され、サイキックと化した少女は、自分の幸せを掴むことができたのだろうか。
まあいい。自分はこれからも自分の仕事をこなすだけだ。
*
数か月後。本部からの指令で某国に向かった。今回は潜入の入り口は指示されていないため、一から糸口を掴まなければならない。
「さて、どうしますかね」
対象に深く食い込むのに油断は禁物。まずはこの国をよく知るべきだろう。市井に紛れ、街を散策する。賑やか、というよりも華やかと形容するのが似合う街。石造りの道を行く人々の靴の音が、爽やかな夏風と相まって軽快な音楽のようだ。その音楽に乗り、甘く香ばしい香りが店から流れてくる。テラス席もあるカフェらしく、パラソルの陰で談笑するグループが見えた。普段なら注意しながらもそのまま通り過ぎている風景だが、どこかで聞いたことのある声が聞こえた気がして、反射的に振り返った。距離があるため表情までは見えないが、聞こえてくる声は確かに彼女らのもの。あのパーティーの時の作られた明るさではない、心からの笑い声。共にいる者達を信頼しているのだとわかる。
ああそうか。彼女たちは本当に「家族」だったんだな。
今回の任務にロッソファミリーの確保は含まれていない。ならば自分が介入する必要はなく、本部に報告せずともいいだろう。吐息だけで笑い、雑踏の中に紛れる。一瞬目が合ったような気がしたが、この距離と人混み、そして変装した自分に気づくことはないだろう。少しの名残惜しさはすぐさま打ち捨てた。エージェントとして生きていくには、自分の有能さを示し続けていかなければならない。そう自分に言い聞かせる。
さあ、任務は始まったばかりだ。