PAと音響機器

PA編
目次

1.PAとはなにか

2.マイク

・マイクとは

・指向性

・使用するマイク

3.ミキサー

・ミキサーとは

・電気信号の入力方法

4.アンプ

・アンプとは

5.スピーカー

・スピーカーとは

6.ケーブル

・ケーブルとは

・バランス伝送とアンバランス伝送

・主な端子

7.注意事項

1.PAとはなにか

PA (Public Address)の直訳は「大衆に伝達すること」です。PAは大衆に伝達するシステム、またはそれを整える人を指します。音楽の世界では特に、主に演者が作った聴衆に伝えたい音(歌声、演奏など)を拡声するなどして聴衆に伝えるシステム、またはそれを整える人のことを指します。以下、「PA」という語はシステムのこととして用います。

PAを図に表すと以下のようになります。

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用いる音響機器には「マイク」「ミキシング・コンソール(以下ミキサー)」「アンプリファイヤ(以下アンプ)」「スピーカー」、そしてこれらをつなぐ「ケーブル」があります。

ひとつずつ解説していきます。

2.マイク

マイクとは

マイクは音(空気振動)を電気信号に変換する音響機器です。

信号の変換の仕方によって様々な種類があります。そのうち、ダイナミックマイクコンデンサーマイクの2種類を紹介します。

ダイナミックマイクは、マイクの中に磁石とコイルが入っていて、音の空気信号がコイルを震わせた振動がそのまま電気信号に変換されます。そのため電源は必要なく、機械とつなぐだけで使用することができます。また、頑丈かつ丈夫に作られており振動や衝撃に強く、湿度や温度変化にも耐久性が高く、誰にでも扱いやすいのが特徴です。そのためカラオケやライブのボーカルマイクなどで用いられます。

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コンデンサーマイクは、コンデンサーを利用したマイクです。空気振動で変化する電極間の静電容量変化を電気信号に変えて出力をします。電極に電気をためるので電源が必要です。電源にはファンタム電源という特別な電源が必要です。また、高感度で耐久性は低いですが、音をクリアに録音できるのでレコーディングによく用いられます。

指向性

マイクによってどの方向の音を集音できるかという特性(指向性)が異なります。目的によって適した指向性のマイクを選ぶ必要があります。

指向性には単一指向性・全指向性・双指向性の3つがあります。

・単指向性
単指向性はマイクの正面から音を拾いやすく、最も広く使われている指向性です。ボーカルなどに向いています。

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・無指向性
マイクの360度の方向に指向性があります。会場全体の音を集音するときなどに用います。

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・双指向性
マイクの表面と裏面にそれぞれ単指向性があります。ラジオなどの向き合った二人の会話などを集音するときなどに用います。

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また、指向性に関連した話として近接効果についても解説しておきます。近接効果とは、単指向性マイクの場合、マイクに近づけば近づくほど低音域が強調されるという効果です。

この効果によって、音を力強くしたり深くしたりすることができます。しかし、音が濁ってしまうこともあります。いろいろ試してみて適した位置を探してみましょう。

使用するマイク

アメリカのSHURE社が1960年代に発売したSM57SM58という二種類のダイナミックマイクが音楽世界では有名です。SM57は楽器、SM58はボーカル用に開発されましたが、実際にはどちらもボーカルと楽器の両方で用いられます。

2つの大きな違いはマイクの先端にある網状の部分(グリル)ですが、それによって指向性が異なり、また近接効果の出方が大きく異なります。それぞれの特性をよく理解して、適した場面、適したセッティングで使うようにしましょう。

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SM57の指向性

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SM58の指向性

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3.ミキサー

ミキサーとは

ミキサーは入力されたひとつひとつの電気信号を混ぜて一つの信号として整えて出力する音響機器です。

例えばボーカルとギターの2人組の音声をそれぞれマイクで拾ってスピーカーから出力しようとする場面があるとします。このとき、ボーカルはギターに比べて遥かに音圧が大きいので、このままだとギターの音がボーカルにかき消されて出力されてしまいます。

そこで、途中にミキサーを設置してギターの音の電気信号を増幅させることでボーカルとギターの音がよいバランスになります。

このように、ミキサーは複数の電気信号のそれぞれの出力レベルの調整を行うことができます。

また、ミキサーは出力レベルの調整だけでなくさまざまな機能を備えており、PA担当の仕事の中核となります。次回以降はこのミキサーの機能について詳しく解説していきます。

ミキサーには電源が必要です。

電気信号の入力方法

ミキサーには「マイク入力」「ライン入力」「インサート入力(後述)」の3種類の信号の入力の方法があります。

マイク入力は、マイクからの信号を入力します。ミキサーとの接続には主にXLRケーブル(後述)を使います。

ライン入力では、キーボード・CD・ベースギターなどからの信号を入力します。ミキサーとの接続には主にフォーンケーブル(後述)を使います。

マイク入力とライン入力は入力される電圧が異なります。

マイクが出力する電圧は数1000分の1Vのとても微弱なもので、基本的には-60dBU( dBUは0dB = 0.775V という基準点を定めた絶対的な単位)から-40dBUの間に収まります。そのため、ミキサーに内蔵されたマイクプリアンプを使って増幅させる必要があります。

対して、ラインレベルの電圧は約1Vあります。業務用のライン入力は基本的に+4dBUに設定されています。

電圧の違いによって入力方法を使い分ける必要があります。

4.アンプ

アンプとは

アンプは、ミキサーから送られた電気信号を増幅させる音響機器です。

ミキサーから出力される電気信号は微弱なので、会場全体に音を届けるためには電気信号を増幅させる必要があります。

ミキサーとアンプは主にXLRケーブル(後述)で接続します。

アンプには電源が必要です。

アンプには様々な機能を備えたものがあり、特にエレキギターに接続して用いる際にその効果を発揮するのですが、ここでは割愛します。

5.スピーカー

スピーカーとは

スピーカーは電気信号を音(空気振動)に変換する音響機器です。

アンプ機能を内蔵したスピーカーも存在します(パワードスピーカー)。 電源が必要です。

アンプとミキサーはXLRケーブルやスピコン(後述)で接続します。

6.ケーブル

ケーブルとは

ケーブルは、ある機械からある機械へ電気信号を送る電線です。機械にケーブルの端を差しこむことで接続します。音響で用いるケーブルを特にオーディオケーブルと言います。

差しこむ口出しをプラグ(Plug)、差しこまれる受け口をジャック(Jack)と言います。対応するプラグとジャックを合わせて端子(Terminal)と言います。また、機械と接続する部品全般をコネクタ(Connector)と言います。プラグのことをオス、ジャックのことをメスと呼ぶことが通例ですが、個人的に下品で好きではないため本稿では使いません。

基本的には機械から出力された信号をジャックが受け取って、プラグから信号が機械に入力されます。

バランス伝送とアンバランス伝送

オーディオケーブルは信号の伝送方法によって2種類に分けることができます。それぞれアンバランス伝送バランス伝送と言います。

2つの違いは内部の構造です。バランス伝送は、グランド・ホット・コールドという3種類の導線を持ちます。対して、アンバランス伝送は、グランド・ホットの2種類の導線を持ちます。

ホットとコールドには音声の信号が通ります。グランド(シールドとも言う)はホットとコールドを覆い、外部からのノイズの混入を防ぎます。

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バランス伝送ではグランドによるノイズ対策に加え、コールドによるノイズ対策がなされています。コールドは同相除去という方法で伝達途中のノイズを削除します。

同相除去のプロセスを一段階ずつ確認してみましょう。

まず、コールドにはホットの信号を上下反転した信号が流れています。このときホットの信号を正相、コールドの信号を逆相と言います。

このとき外部からノイズが与えられたとします。するとホットとコールドに同じようにノイズが乗ります。

そこで、ケーブルの終わりでコールドの極性を反転させてホットと同じ正相にします。するとノイズの部分だけ逆相になり、ノイズだけが打ち消しあって聞こえなくなります。

以上の仕組みでバランス伝送ではよりノイズを防ぐことができます。

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主な端子

具体的な端子を見ていきましょう。端子にはさまざまな種類がありますが、PAで用いるケーブルの端子は主にXLR端子・フォーン端子・スピコン(SpeakON)の三つです。

・XLR端子
XLR端子はアメリカのCanon社が開発したケーブルの規格です。音響機器同士の接続に使い、電力を送ることもできます。伝送形式はバランス伝送です。

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・フォーン端子
フォーン端子は、本来は19世紀に手動のパッチパネルによる電話交換台で交換手が操作したコネクタの規格でした。現在では、アメリカ電子工業会(EIA)でEIA-453として規格化されています。接続が簡単で、頻繁に抜き挿しする用途に向いています。XLR端子と同じように、音響機器同士の接続に用います。

フォーンプラグにはTSプラグとTRSプラグの二種類があります。TRSプラグはモノラル信号のバランス伝送、またはステレオ信号のアンバランス伝送です。TSプラグはモノラル信号のアンバランス伝送です。

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・スピコン
スピコンは、リヒテンシュタインのNeutrik社によって開発されたケーブルの規格です。アンプとスピーカーの接続に用いられます。コネクタを回転させて爪によってロックすることができます。抜けにくい、感電の恐れが少ない、大電流に強いなどの利点があります。

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7.注意事項

以上の音響機器は必ず信号が流れる順番に沿って電源を入れます。切るときは逆です。誤った順序で電源を入れると破損します!

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