全日本大学駅伝対校選手権大会 寸評


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寸評

 関東12校と京都産業大学を加えた13校に勝負を挑むのは身の程しらず。第一工大はモロッコからの留学生がいるが出雲の結果を見る限り、驚くほどは強くない。しかし徳山大、広島経済までが持ちタイムから見て名大の勝てる可能性は少ない。愛工大、立命館、福岡には少し分が悪いだけで勝てるかもしれない。四日市、関大とは対等の戦いが望める。試合前に掲げた目標順位は18位とした。私のたてた8人の目標記録を合計すると5時間35分になる。これで例年だと順位は14〜15位。あまりに楽観的すぎるので下方修正して5時間40分で順位は18位とした
 奇数区間と6区松井は好調に仕上がったが、2区、4区、8区に関して自信がなかった。特に4区の杉山には心配した。試合前の10日間は調子が崩れないのを祈って、かなり気を遣った。

1区 内藤(4)
 スタート地点に朝6時過ぎについた。縁起をかついでリラックスするためにいつものガムを噛んだ。天気は良く、内藤の表情もよかった。すごい人だかりと、テレビの世界を目の当たりにし、ここまでの道のりを思い出したら胸が熱くなった。
内藤が元気よくでていったのを見届けて監督車に乗り込んだ。バスの中のテレビ画面と、実際のランナーの後ろ姿を遠目に見ているが離れた様子はない。内藤は5km手前のランプウエイの上りで少し集団からおいて行かれたらしい。中間点前ではっきりと内藤の姿が見えた。愛工大の桐山と四日市大の鎌田の30秒程前を元気に走っていた。帝京大と併走してきつそうな表情をしていた。このまま行けば2区に渡る時点で四日市や愛工大に2分程度の差を付けるのが確実だと思い2区の瀧川に電話しようと思った。しかし鎌田はきつそうだが桐山の表情にはまだ余裕があり無気味な気がしてやめた。
10kmをすぎて内藤のスピードが鈍り始めた。まずい。どうなるか冷や冷やしながら内藤の背中と愛工大をバスの中から交互に見ていた。何とか内藤は粘りきり、40秒の差を付けて2区にたすきを渡した。後半の伸びがなく目標記録から見て1分遅かった。しかし誰もが極度に緊張する華の1区で、愛工大に40秒も勝って来たのだから十分合格だろう。

2区 瀧川(3)
ここは不安が少しあった。試合で実力のすべてを発揮できていない、もどかしさの残る瀧川だから、びびるのではないかと心配だった。内藤の調子から、もっといい順位でくると予想していただろうが、焦ったかもしれない。押さえないで最初からつっこみ気味で行きたいという本人の宣言通り1kmはハイペースで入ったらしい。しかし前との差が思ったようには詰まらないので、そこからは冷静に目標ペースに切り替えた。それが成功だろう。
3kmで、愛工大の富田と四日市大の永井が瀧川をとらえる勢いで迫ってきた。あっさり抜かれるのではと心配だった。5km過ぎで追いつかれた。バスの窓が開かないので、心の中で瀧川、しっかりつけよと叫んだ。監督車は後方に位置し、ちらちらとしかみえない。名大の白、四日市の緑、愛工大の紫のユニフォームが離れず集団で進んでいる。しかし10kmを過ぎたあたりで四日市の永井が抜け出した。瀧川は懸命に愛工大についていく。残り2kmで監督車が前にでて、瀧川の表情を見ることができた。引き締まったいい表情をしていた。一方富田はもう精一杯という顔で、最後に勝てると思った。しかしラストもさほど効かず、落ちてきた広島経済を抜いたにとどまった。ほぼ目標記録通りに走った。しかし練習を見る限り、内藤と同様にもっと上のレベルで戦える素質があるのにというもどかしさが残った。

3区 藤田(1)
ここは期待していた。距離も短くて最初から突っ込んでも藤田の走力なら粘れるはずだ。目の前に多くのチームがみえる状態でたすきをもらった。冷静に走ればゴボウ抜きも可能だ。しかしすぐに広島経済に抜かれ、愛工大の吹田に離されていく。藤田だけが冷静に滑り出しており、失敗はないだろうが、力からみて少し物足りなさを感じた。まあでも1年生だからなあ。
中間点あたりから、四日市や愛工大などとの差が変わらなくなり40秒あまりの間に数校がひしめく、まさに駅伝レースとなった。後半四日市の館が腹を押さえる仕草を見せ始め、差が詰まっていく。藤田の表情も苦しそうだが大きなスピードダウンはしていない。あとは我慢比べだった。多くを望むのは酷だが、力から言えばもっと走れてもよかったような気がする。ここまでの3区間で、先頭から8分離され、後半の区間で白たすきになってしまうのが確実となった。

4区 杉山(4)
 秋口に入って好調を取り戻し、予選会頃から絶好調だったのに、10日前から風邪と研究室が忙しいのとで練習に冴えがみられない。最悪の場合には3区の藤田と区間入れ替えも頭に入れるほどだった。一番不安な区間だった。
藤田から前が見える位置でたすきをもらって冷静に走りはじめた。後のランナーは全くいない。2kmを過ぎると四日市、愛工大、福岡、立命館、広島経済が、杉山の前方100mの地点でだんごになり、一人で追い掛けるまずい展開となった。集団で走った方が流れに乗りやすく走りやすい。好調な時の杉山ならそれでも安心してみていられるのだが、心配した。しかし中間点過ぎてもその展開は変わらない。杉山も離されずに良く頑張っている。さらにいい事に、その集団の1分30秒も前にいた関西大学がずるずる遅れてきた。走りが冴えない。杉山は抜く。第一目標は関西の3番目に勝って、東海地区のシードを守ることにある。関西大学のこのブレーキは、後半を走るランナーにとって重圧を和らげる。8区の付き添いの吉田に関西大学のアンカーの走力を調べさせ、嘉賀に頭の片隅に入れて走るように伝えた(結果としてあまり意味がなかった。きっと嘉賀はそんな事考えなかったろう)。
4区の残り3kmぐらいから集団がやっとばらけはじめた。愛工大の滝川が前に出た。杉山は落ちてきた関西大学を軽く交わし、立命館と併走していた。30秒の間に6チームが入った。四日市も後半は苦しみ、杉山との差がつまる。最後に立命館に離されたが、43分19秒の快走だった。繰り上げ10分の線上でこの6校のたすきが次々とわたった。

5区 嶋本(M1)
昨年の三好池の予選会で大ブレーキをし、冬から春、そして夏と狂ったように走り込んだ。秋になって14分台で走り、実力でメンバー入りし、名大出場の大きな原動力となった。その嶋本を、自信を持ってこの5区に起用した。監督車は1km地点に先回りし、ランナーを待った。嶋本は最下位集団でやってきた。周りはオーバーペースぎみに突っ込んでいって、嶋本だけが冷静に走っているのだろう。しかしそれでも遅いのでは?嶋本がたすきをもらって数秒後に4チームの繰り上げが行われた。14分台で走れるランナーがこの4チームにいるはずがない。不安になって嶋本大丈夫だよなと声をかけたが、顔色は白く、応えた左手も弱々しそうで私は不安になった。プレッシャーに押しつぶされたのかなと、本当に不安になった。
監督車に乗り込み選手を追うが、走る姿が見えずイライラした。中間点を過ぎたところで嶋本のフォームが確認できた。いつもの軽快な走りではないが、前をいく広島経済や愛工大や四日市などとの差も大きく変わっていないのでほっとした。後半大きく追い込めるかと思ったが、そこからの伸びは不発だった。記録的には追い風もあって悪くはないが、日頃の力を見ればもっといってもいいと思われた。完全にブレーキなのだろうが、胸を打つほどの努力、練習量がこの程度でおさめてくれたのだろう。緊張した中で、その意味では力走したと評価できる。

6区 松井(4)
松井がゆっくりと滑り出した。愛工大は有馬がぐんぐん飛ばしていく。他のペースに惑わされず淡々と一定ペースを守って走っていた。ここが松井の一番いい点である。驚くような快走は期待できないが、安心して任せる事ができる。追い風が強くてランナーにとっては走りやすい環境だった。なんとその中1kmを3分13秒で入った。本当に松井らしい。中間点を過ぎて愛工大との差は1分を越えてしまった。松井自身の調子は好調の部類に入るが絶好調とまではいかない。
この区間も監督車は渋滞に巻き込まれ、松井の様子がなかなか確認できない。愛工大の有馬はやはり強い。10kmを過ぎてペースダウンしただけで走りきった。この区間が終わって名大との差は2分近くなった。逆転は難しい。しかし四日市は前半突っ込んで後半の3kmあたりから大きくペースダウンするのを3区からくり返していた。この区間もそれと全く同じ展開で、松井がたすきを渡した時点で四日市との差30秒はほとんど変わっていなかった。松井らしい通常の走りだった。2年前の三好池で、ラスト倒れながら這ってたすきを渡した執念が、この夢のような舞台で実って、よかった。

7区 稲垣(2)
残念ながら先頭駒沢が速くて、松井から稲垣へはたすきがつながらなかった。ここまではつながると楽観していたが、全国のレベルはやはり険しい。安易にたすきをつなぎきるなんていえない。さらにこの区間から片道一車線しかないので稲垣の姿を見るのが非常に困難な状況だった。この集団でたすきがつながったのが愛工大と広島経済だけで、四日市、立命館、関西、福岡と一緒に一斉スタートした。中間点当たりでやっと見えたが、四日市には大きく引き離されており、好走という評価はしづらい。もちろん、ブレーキというわけではないが、14分台の持ちタイムから見れば力を出し切れていない気がする。いずれにしても将来はこの学年が柱になって名大を引っ張っていかなければならない。駅伝には最も適した走り方をする稲垣だけに、選手争いの線上にいるのでなく、柱に育って欲しい。なれるかなあ。後半は全く見る事ができなかった。

8区 嘉賀(M1)
出場決定以来ニュースステーションを頂点とするマスコミに取り上げられた嘉賀がアンカーを走った。練習量や強度を落とす日も私のメニュー以上の練習をするので疲労蓄積が心配だった。前日のぬかるんだ名大グランドでの2000mの刺激を見る限り、悪くはないがあまりいいともいえない感じだった。それでもそこそこ走ってくれるという信頼感はあった。
10kmを過ぎるまで全く監督車からランナーは見れない。1校大きく遅れているのが赤いランパンの福岡大学でその前は30秒は空いて集団が見える。おそらくその前にいるのだろう。13km過ぎでやっと道が広くなり前にでる。福岡、仙台、四日市、北海道、金沢、を抜いていったがまだいない。快走の予感で嬉しくなる。広島経済、立命館、関西大、を抜いたところでやっと愛工大の紫のユニフォームが見える。嘉賀はその150m前に見えた。第一工大も抜いている。監督車から顔を見たが少し余裕がある。さすがだ。マスコミからのプレッシャーも力に変えて快走している。
 監督車は残り600mの所に停車した。急いでコースを逆走し、ラスト1kmで大きな声をかけた。後半の5kmでは疲れてその差を大きく広げることができなかったが、立命館、福岡、四日市をこの区間で逆転して18位に入る一番の原動力となった。

 終わってみれば5時間34分台で18位、四日市大にも勝ち、広島経済にわずか10秒までせまる快心のレースといっていいだろう。一つ一つの区間ではもっといってもという寸評だが、実際に凄い重圧のかかる全日本で力を発揮できたというのは賞賛に値する。他の大学の持ちタイムから見ても、本舞台で一番頑張ったのは名大であろう。ついに昔の3強に追い付いた。

選手感想

1区 内藤聖貴(4) 14.6km 45'39 区間20位
 毎年正月に、みんなでお参りに行く熱田神宮に、ようやく選手として来ることができました。本当にたくさんの方が応援にきてくださって、沿道にも大勢の人がいて、涙がでそうでした。地元ということで、走っている最中もたくさんの応援が聞こえてきて、本当にうれしかったです。ありがとうございました。
 残念ながら襷を伊勢までつなぐことはできませんでしたが、たすきに込められた三年分のみんなの想いはしっかりとゴールまで運べたと思います。
 しかし、個人としては力不足を痛感させられる情けない結果となってしまいました。悔しいです。
 次は東海学生です。今度こそ、納得のいく走りができるようがんばります。
 朝早くからの応援、本当にありがとうございました。

2区 瀧川 紘(3) 13.2km 41'32 区間18位
 
2区を走らせていただいた瀧川です。レース序盤の消極性がそのままタイムに出てしまいました。でもいつもなら自分の凡走に対して不快になるだけでしたが、今回は不思議と満足感がありました。それは走り云々ではなく、スタート前の緊張感、沿道の大声援、仲間の応援、ゴールを待つ高揚感など、この大舞台を存分に楽しむことができたからだと思います。生涯の思い出にすることができるのも、名大を応援してくださったすべての方々あっての事です。本当に、本当にありがとうございました。決してここを終着点とせず、これからも精進していこうと思います。


3区 藤田 裕(1) 9.5km 29'46 区間22位
 補助員、付き添いのみなさん、そして応援してくださった方々、朝早くからありがとうございました。みなさんのおかげで走ることに集中できました。今後は今回の経験もいかして、チームに貢献できるランナーになれるように練習に励みたいと思います。


4区 杉山一慶(4) 14.0km 43'19 区間15位
 タスキを受け取った時、先頭との差は7分30秒。調子を崩していたこともあって、つなげられるのか微妙でした。しかし内藤、瀧川、藤田が運んできた、たくさん皆様の思いを背負ったタスキをつけた時、なんとしてもつなげよう、前だけ見て走ろうと心に決めました。沿道からの御声援は何より励みになり、粘ることができました。第四中継点で嶋本さんが白タスキをはずしているのを見た瞬間のうれしさは、鮮明に心に残っています。全日本大学駅伝を通して、自分はたくさんの方に支えられ走っていることを再認識しました。
 朝早くから応援に駆けつけてくださったOB・現役部員の皆様、学連をはじめたくさんのレース関係者の皆様、そして全日本の舞台へ連れて行ってくださった監督、チームメイトに心から御礼を言いたいと思います。ありがとうございました。


5区 嶋本直之(M1) 11.6km 37'11 区間21位

 3年前は補欠に甘んじました。そのときから毎年来年こそは全日本で走る、と思い続けてきました。そして今年ついに院生でありながら走らせていただくことができました。当日はほんとにすごい人でした。たくさんの人が応援に来て下さり、僕に直接声をかけて下さった人もいて感無量でした。かけがえのない体験をさせて頂きました。
 コーチをはじめ応援していただいた全ての人に感謝しています。ありがとうございました。


6区 松井秀登(4) 12.3km 38'49 区間21位
 ほとんど緊張することなく、周りを気にしないで気持ち良く走ることができました。体調をしっかり合わせて、しかも強い追い風だったので3分10秒では刻む自信がありました。繰り上げは全く頭になく、たすきを取りラストスパートをしたのに、中継所に稲垣がいなかったのはショックでした。最後の2kmのラップが最も良かったことを考えるともっといけたのではないかと思います。
 4年間積み重ねてきたことが結果として残せたことに満足しています。


7区 稲垣真太郎(2) 11.9km 38'08 区間21位

 
最後までメンバーに入れるかどうかギリギリのところにいましたが、全日本を走らせてもらえることになって本当に嬉しかったです。当日は程良い緊張感でリラックスして走ることができました。チームとしては最高の成績を残すことができたと思うのですが、個人的には不本意な走りとなってしまいました。残念ながら僕から繰り上げスタートになってしまい、中継点に嘉賀さんがいなかったのは本当に悔しかったです。
 僕にはまだまだ先があります。来年はアンカーまでタスキがつながるように強くなりたいと思います。コーチ、チームメイト、OBの方々、応援してくださったみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

8区 嘉賀正泰(M1) 19.7km 1°00'22 区間10位
 全日本大学駅伝を走ることは夢でした。だから走りながらいつまでも続いて欲しい、とさえ感じました。最後ゴール前大歓声があがり不覚にも感泣してしまいましたが、最後みんなの待つゴールにはどんなことが起ころうとも笑顔で帰るつもりだったので、果たせて良かったです。また来年も来たいと思います!支えて下さった監督、チームメイトのみんな、応援に駆けつけて下さった皆さんに感謝します。有難うございました。