基本を忠実に 師範 魚 住 文 衞
弓道に限らず柔剣道や各種スポーツを練習する場合に夫々基本というものがある筈である。
弓道の基本は申すまでもなく五重十文字、三重十文字(三重の規矩)と射法八節及びその正しい運行である。
初心のうちは指導者の助言によって一生懸命に基本を修得しようと努力するが二年程の練習で概ね基本に即した射の運行ができるようになるものである。
稽古の手段として(1)見取り稽古(上手な人の射を見習う)、(2)工夫稽古、(3)数稽古の三つの方法があるが、前述の二年程稽古すると、いわゆる工夫稽古をするようになるが、この工夫稽古というのは自ら進んで射法射技その他弓道に関する指導書を勉強したり先輩や指導者に質問して自分の射を反省することであるが、ややもするとこの工夫稽古の意味を誤解して自我意識をもって自分勝手の考えで射を行ない勝ちである。これは戒めねばならない。
弓道では古来、貫・中・飛の三要素が重要視されているが、これを実現するには基本に則した正しい射法によることが肝要である。
大学の弓道では中りを最も重要視する傾向があるが、中りだけならば矢乗り(狙い)を的の後ろ(左)につけるとか左右のバランスだけで中りを得ることもできるが、それでは矢勢がなく貫通力や飛距離が劣るものである。
上達すれば上達するほど基本を重視するものである。尾州竹林流の伝書に「初心に帰れ」という教義があるが、換言すれば「基本を忠実に」ということであると思う。