第32号 悟弓巻頭言

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 和について思う      師範 魚 住 文 衞



 全日本弓道連盟発行の弓道教本第一巻の冒頭に掲げられている吉見順正師(紀州竹林派の始祖)の射法訓のうちに「弓手三分の二を推し、妻手三分の一を引き、而して心を治む是れ和合なり、然る後胸の中筋に従い宜しく左右に分かるる如くこれを放つべし。書に曰く鉄石相剋して火の出すること急なり。・・・」という教えがある。この教えは尾州竹林流の伝書にも同様趣旨の字句が記されている。

これを要約すると、弓を射る場合に左手と右手の引き分けが均等に調和し、弓と体と精神が一体(いわゆる三位一体)となって、体の中心(丹田)から発する気力、筋力が天地左右に伸びて、電光石火のような鋭い離れを生ずることが大切であるという意味である。

そもそも弓射の要件は飛、貫、中の三つの具現を期することが大切であるが、それには前述の三位一体が要求されるのである。

一射を行うのに、たくさんの調和を要する事項があり、一、左手(左腕)と右手(右腕)の筋力の調和 二、縦軸と横軸の働きの調和 三、弓の強さと筋力(体力)の調和 四、息合い(呼吸)と動作の調和 五、弓具の調和(弓の強さと矢の重さ、弓の強さと弦の太さ重さ、弓の強さと弽の硬軟)等が挙げられるが、これらが調和して一体となったときには矢勢が強く(飛、貫)的中確実となる。また調和に関して尾州竹林流の教義に皮肉骨の九勘ということがある。即ち、

一、皮肉骨弓にあるなり人にあり、矢にもあるなり、よく口伝せよ(歌知射の巻)

二、皮肉骨の九勘(初勘の巻)

皮の人        肥痩、力の傍らない人

     肉の人        肥満であるが力の弱い人

骨の人        筋骨強い人


皮の弓        分(弓の厚さ)と強さが相応しているが弱い弓

     肉の弓        分厚であるがその割に弱い弓

骨の弓        分(厚さ)に比し強くて張りのある弓


皮の矢        太からず細からず平凡な矢

     肉の矢        太いが箆張りの弱い矢

骨の矢        箆は細いが筩(竹の肉)が厚くて箆張りが強い矢


皮の弦        弓の強さに応じ太からず細くもない弦

     肉の弦        弓の強さに比して太すぎる弦

骨の弦        細くても強い弦


皮の矢声      去声、悲声、裏声

     肉の矢声      上声、胴声、太く根のない声

骨の矢声      平声、よく響く声


皮の離         上ずって冴えのない離れ

     肉の離        一応無難であるが迫力のない離

骨の離        剛く鋭い離


皮の気        十分引き收まらないもの

     肉の気        引き收めても働きがないもの

骨の気        引き收めて全身の働きがあるもの


皮の射形      弱々しい射形

     肉の射形      筋力の働らき鋭く平凡な射形

骨の射形      五分の詰宜しく剛身の射形


皮の位        初心者の位

     肉の位        中位

骨の位        達人の位

 このように、人、弓、矢、弦、声、離、気、射形、位の九要素を勘案し、それぞれよく調和するように心掛けよという教義であるが、私は更に一項目追加するのがよいと思う。即ち、

 皮の弽           柔らか帽子または小瓜弽(チョンガケ)

 肉の弽           帽子が堅くて腰の柔軟な弽

 骨の弽           本堅めの弽(指矢弽など)

一射を行うのに以上のように多くの調和が必要であり、その調和が完璧になったとき偉大な力を発揮することを肝に銘ずべきである。

更に大切なことは人と人との和であり、弓道部員が一体となって精進し、本年こそは立派な成果を挙げるように頑張ってくださるよう念願してやまない。


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