第19号 悟弓巻頭言

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    射の基本について     師範 魚 住 文 衞
                         

 運動競技その他いろいろの芸事を習うのに基本が大事であるということをよく聞くが弓道の場合の基本というのは、正しい姿勢による起居進退(基本体、基本動作)と、射を行うのに必要な体の組み立て方(射の基本体型)である。紙面の都合で基本体と基本動作については割愛することとし、射の基本体型について些か所見を述べてみる。

 射の基本体型とは何かと問えば、即座に五重十文字と三重十文字であると答えるであろう。正にその通りであるが、それだけでは十分な答えにはならない。五ヶ所の十文字とか、足、腰、両肩の正しい重ねについての説明は誰でも知っている初歩的なことであるが、この五重十文字は射の運行のどの時点で完成されるべきであるかと問えば、ちょっと考えるであろう。そして矢束一ぱい引き納めたときに完成されると答える人があるとすれば、それは誤りであって、三重十文字は足踏み胴造りの時に完成され、五重十文字のうち(1)両肩を結ぶ線と背柱(胸の中筋)の十文字は胴造りの時に完成され、(2)次で取りかけの時に弦と右手の拇指の十文字が完成され、(3)次の手の内を整える時に弓と手の内の十文字(4)同時に弓と矢の十文字が完成される。(5)背柱(胸の中筋)と矢の十文字は矢束一ぱい引き納めた時に完成されるとも云えるのであるが、その前提として斜め左上に打起こした時(大三)から背柱(胸の中筋)と矢が常に十文字を構成する心持ちで引分けの運行がなされなければならない。即ち矢の水平を保ちつつ引分けを行うのである。このように三重十文字と五重十文字は射の運行中は勿論、離れに至るまで一貫して維持されなければならないのである。尚、これらの十文字は外形を正しく整えるだけでなく、内面的な働き即ち、これらの十文字をムリなく正しく構成し維持させるためには弓の強さと筋力の調和、正しい弦道(両手運行の筋道)、射の運行と息合いの調和、目使いと精神の調和、などが必要となるのである。これらの内面的な活動は総て丹田を中心とし、丹田の発動によって全身が一体となって運動することが肝要である。換言すれば、射の基本体型と云われている五重十文字の体型は前述のように内面的な基本的な働きが主であって、十文字の体型はその影であり結果であると云うべきであろう。このように考えると、射の基本体型と云われる五重十文字や三重十文字は射の基本であると同時に射を完成する総てであるとも云えると思う。

 基本をしっかりと学べということは初心者に対する言葉のようにも受け取れるが、弓道に志す者の総てに必要なことである。寧ろ熟達者ほど基本に忠実であると確信する。


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