第18号 悟弓巻頭言

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    弓射の基本について     師範 魚 住 文 衞
                         

 日本の弓道が近年非常に隆盛になった。これは高校や大学など学校弓道がその基盤になっていると思う。

 学校弓道でも一般社会弓道でもその最高目標が人格陶冶であることには変わりはないが、修練の過程において重点が幾らか異なっているように思われる。高校や大学では体育的であると共に的中を重視するが、一般社会弓道では体育的効果よりも徳育的というか礼節と正射正中が強調されている。大学弓道でも礼節と正射による的中を求めることを軽視していると云うのではないが、残念ながら各大学では適当な指導者を得ることが至難な現状である。名大弓道部においても私は師範の重責にありながらその実態は雑用に追われて殆んど実地指導ができず名目だけの師範であることを申し訳なく思っている。そこで此の紙上を借りて部員各位に望みたいことを要約して述べてみたいと思う。

 大学の弓道部は、どの大学でも各種競技会でよい成績を挙げることが最大の目標であると思うが、その為に部員が一致団結して練習に励み、的中率の高い者を選手として送り出し、他の部員が挙って応援活動をして(無秩序な声援は好ましくないが)自校選手を援護する状況は社会人弓道では見られない美風であると思う。

 的中率を高めるには間断のない練習によって或程度の的中を得られるようになるが、単に練習量が多いだけでは高率の的中は得られるのもではないと思う。合理的な射術が要求せられるのである。

 射法八節は射法の一般的な基準であり、その内容は簡単のようで実は複雑多岐である。射法八節のうち特に重要なことは概ね次の六項目であり、これが射法の基本ともいうべきものである。即ち、

一、三重十文字と五重十文字

· 三重十文字とは正しい足踏みの上に正しく腰を重ね、その上に上体(両肩)を正しく重ねることである。これは残身まで崩れてはならない。

· 五重十文字とは、三重十文字と内容的に一致するところもあるが次の五箇所の十文字をととのえることである。

(一)胸の中筋と両肩を結ぶ線

(二)首筋と矢

(三)左手の手の内と弓

(四)弓と矢

(五)右手の拇指と弦

二、弓の抵抗力に相応した力(ムリ、ムダ、ムラのない力)で全身を使って、且つ息合いと調和して引分けること。

初心のうちは必要以上の力を使い、且つ両手先で引分ける傾向があるが、射の基本は全身(丹田、腰、両足、胸、両肩、両上腕、両肘、両下腕)が同時に同程度の筋力で働くことが肝要である。

三、息合い

どんな動作でも息合いと協応しながら行うことが大切であるが、殊に弓を引く場合には静的且つ相当の筋力を要する動作であるから特に引分けと息合いの協応が重要である。息合いは心気の発動と筋力に密接な関係があり、むずかしいことであるが慎重な練習によって自ら悟らねばならない。

四、心・気の働き

弓射は精神統一の修行であるとも云われ、心の安定が大切である。無念無想という言葉も使われているが、無念無想は射の運行にあたって全身に細心の注意を払う徹底的な有念有想であると思う。全身全霊の射が絶妙な射と云われるのは心気の働きが完璧でなければならない。

五、正しい目使い

正しい目使いは正常な精神の発露であり自己の心を見つめることであって、その場の全体を我が心に収めることである。換言すれば全体を一ツに集中することであって、決して一ツの点(例えば的)だけに視力を集中するのではない。

六、正しい矢乗り(狙いが矢筋を通して的の中心に向かうこと)

 以上の六項目は斜面打起こし、正面打起こしを問わず弓射の基本ともいうべき重要なことであるから平素の練習に十分心掛けることが大切である。

 理論は理解できても実技は至難であるので理論をよく辨えながら鍛錬を積み重ねることが肝要である。

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