部報発刊を祝う 師範 魚 住 文 衞
昨今の東京の寒さは、名古屋ほどでもないが昼間は空き家になって火の気のない小生の寓居は、主人の小生が帰っても「お帰り」という者もなく無愛想に冷たい部屋が待っているのが常である。しかし、時たま親友からの手紙が夕刊と一緒に玄関に放り込まれ、その手紙を再三読み反すのが何よりの楽しみであり、部屋は寒くても心が温まるのである。
今日は、佐野君から「速達はがき」が舞い込んでいた。鞄を投げ出して早速はがきを拝見した。“名大弓道部報を出すことになったから小生にも何か書け”とのことである。
“待ってました!” と心が躍る。しかし、文章が不得手でちょっと当惑したが、“待ってました!”というのは次のようなわけがあるからである。 その一つは、東京へ来てから十カ月目になるが無性に故郷が恋しい。殊に弓道仲間の消息が知りたい。こちらが御無沙汰をしておって身勝手な希望ではあるが、名大弓道部報ができたら、発行の都度送ってもらって諸兄の活躍振りを一目で知りたいというずるい考えと、次の理由は、小生は過去を顧みて名大弓道部の師範とは名ばかりで実が伴わず、殊に昨年四月東京へ転勤してからは全く自責の念にかられている。せめても部報の紙上を借りて時たま下手な弓道の講釈や質疑応答でも出来れば少しでも肩の荷が軽くなるような気もするし、第三の理由は、部員団結の一助となるということである。校舎が分散している現状では常時同じ道場で全部員での練習が困難な事情にある。だから部報を通じて部員相互に意見などを述べ合う等によって射技の向上と融和を図り、時には先輩諸兄からも指導激励の記事も寄せてもらって共に精進するによい手段となるからである。
幸い名大は、我々が常に敬仰している須賀太郎先生を弓道部長に戴いているので、そのよいご指導の下に先輩と部員等関係者全員の協力で、部報を立派に育てつゝ、大学弓道本来の目的に向って邁進してもらいたい。及ばず乍ら小生も諸兄と共に協力を誓い部報発刊の祝辞とする。
(昭和三十八年一月二十五日夜東京寓居にて)