1.AUX(サブのスピーカーに信号を送る)
・AUXとはなにか
・2種類のAUX
2.EQ(信号を補正する)
・EQとはなにか
・EQの目的
・2種類のEQ
・スペアナ
3.FX(信号に効果を加える)
4.PAN(左右の聞こえ具合を変える)
今回はミキサーの補助的な機能について解説します。
一般に演奏会では、聴衆に音を伝えるためのメインのスピーカーのほかに、サブのスピーカーを用意します。
サブのスピーカーを用意し演者自身に向けることで、どのような音が聴衆に届いているのかを知ることができます。また、他の人の演奏の音がよく聞こえるようにもなります。
このサブのスピーカーのことをモニタースピーカーと言います。また、モニタースピーカーから出力される音のことを返しと言います。
モニタースピーカーにマイクから出力された信号を送るために、メインのスピーカーに信号を送る道筋の途中で信号の流れを分岐させます。この機能をAUX(auxiliary)と言います。読み方は「オグジュアリー」です。補助、予備という意味です。
AUXはフェーダーと同じようにチャンネルごとにレベルを調節することができます。
AUXは、分岐させる点がフェーダーの前か後かで2種類に分かれます。フェーダーを通る前の信号を使うAUXをPre AUX、フェーダーを通った後の信号を使うAUXをPost AUXと言います。一般にはPre AUXを使用し、エフェクトのモニターなどに限ってPost AUXを使用します。
信号の特定の周波数を増幅または減衰させて補正する機能をイコライザー(EQ)と言います。人間が知覚できる20Hzから20kHz程度の周波数を調節することができます。
特定の周波数を増幅させることをブースト、減衰させることをカットと言います。
EQを用いる目的は主に二つあります。
一つ目の目的はハウリング対策です。
ハウリングとは、スピーカーから出力された音をマイクが拾い、その音がまたスピーカーから出力されるという循環を繰り返すことによって不快な音が発生する現象です(ただし不快かどうかは主観に依るので不快でない人もいます)。たいていはモニタースピーカーの音をマイクが拾うことによって発生します。ハウリングを防ぐためにはモニタースピーカーのレベルとゲインを上げすぎないことが重要です。
また、ハウリングは特定の周波数で発生します。ハウリングを起こしている周波数をハウリングポイントと言います。ハウリングポイントになりやすい周波数をEQでカットしておくことで、ハウリングを防止することができます。基本的には1 kHz付近で発生することが多く、80 Hz以下または8 kHz以上でハウリングが発生することは滅多にありません。実際には、準備の段階で現場に合わせて調整をしていく必要があります。
二つ目の目的は音をより音楽的によくすることです。
特定の周波数をブーストまたはカットさせることで、以下のような効果を付加させることができます。ただし、ブーストさせるとハウリングの可能性が高まるので、基本はカットをしましょう。EQは引き算が基本です。
60Hz付近
ブースト→重低音に厚みをつける カット→こもり解消
120Hz付近
ブースト→低音にふくらみをつける カット→こもり解消
250Hz付近
ブースト→弦楽器に厚みを付加 カット→小さい部屋のこもり解消
500Hz付近
ブースト→質量感が増す カット→スッキリした印象
1kHz付近
ブースト→臨場感が増す ハウリングに注意
2kHz付近
ブースト→歯切れの良さが増す ハウリングに注意
4kHz付近
ブースト→ブリリアントな印象 カット→スッキリした印象
8kHz付近
ブースト→のびやかさ カット→なめらかな印象
EQはあくまでハウリング対策を主目的に使いましょう。つい、EQを細かく調節して演奏をよくしようと思ってしまいますが、そもそも良い演奏や音はEQのような補正技術ではなく、演者の楽器の演奏技術に求められるべきです。下手な演奏はいくら補正しても下手なままで、上手な演奏は多少粗雑なPAでも琴線に触れるものです。
EQにはさまざまな種類があり、ミキサーによってEQの種類は異なります。そのうち、グラフィックEQとパラメトリックEQを紹介します。
グラフィックEQは周波数をいくつかの帯域に分割し、各帯域の周波数をブースト・カットすることができるEQです。ピンポイントで調節することはできませんが、そこまで細かい設定は必要なく、よりスピーディーに全体の周波数補正をかけたい場合に役立ちます。
パラメトリックEQは、いくつかのポイントを動かすことで細かく周波数を調節できるEQで、現在最も広く使われているEQでもあります。直感的に操作することができ、初心者にも分かりやすいです。細かい仕様は機種によって異なります。
EQを調節するにあたって、スペアナ(スペクトラムアナライザー)という便利な機能があります。スペアナとは、入力された音の周波数を可視化する機能です。目で見て判断ができるので、効率よく調整することができます。
エフェクト(FX)とは、音に加える音響効果のことです。代表的なものには、リバーブ・ディレイ・エコーなどがあります。イコライザーをエフェクトに含むこともあります。
リバーブとは「残響音」のことです。リバーブをかけることで、大きなホールで響いているような感覚を与えることができます。
エフェクトは、信号それぞれにフェーダーのようにレベルを調節することができます。また、かけ具合や時間、鳴り始めなども細かく調節することができます。
ミキサーはいくつかのエフェクトを内蔵していることがほとんどですが、内蔵されていないエフェクトを使いたい場合は、外部のエフェクター(エフェクトをつける機械)を用いることができます。ミキサーのインサート端子を用いて接続します。
音にはモノラルとステレオという二つの分け方があります。
モノラルとは、一般的に一つのマイクで録音された音源、あるいは一つのスピーカーで再生する方法のことを言います。例えばスマホでの録音はマイクが一つなのでモノラルであると言えます。イヤホンでつないだときには左右から同じ音が再生されます。
ステレオとは、一般的に二つ以上のマイクで録音された音源、あるいは二つ以上のスピーカーで再生する方法のことを言います。ステレオとは立体音響という意味があり、複数のスピーカーからそれぞれ違う音が出るので、立体感や臨場感を得ることができます。イヤホンでつないだときには左右から異なる音が再生されます。
ステレオの音源において、ミキサーではチャンネルごとに左右の位置を調節することができます。この位置のことを定位と言います。そして、定位を調節する機能のことをPANと言います。楽器それぞれの特性を把握して、うまく立体感を作るようにPANを調節する必要があります。