伊　吹　お　ろ　し

前口上

富貴名門の子女に恋するを純情の恋と誰が云う

路頭にさまよえる女に恋するを不浄の恋と誰が云う

泣いて笑って月下の酒場にて媚びを売る女の中にも水蓮の如き純情あり

酒は飲むべし百薬の長、女は抱くべし陶酔の境

女の膝枕にて快楽の一夜を過ごさば、人生の夢もありなば恋もありなん

雨降らば降れ、風吹かば吹け、いざ進みゆかん若き男(お)の子よ

安危凄めく混乱の巷、いざ声高らかに歌わんかな、第八高等学校寮歌伊吹おろし

　　　 いぶき　　　　　　　　　　　　ゆきき
一． 伊吹おろしの　雪消えて
　　　 きそ　　　 なが　　　　　 　ささや
　　木曽の流れに　囁けば
　　　　ひかり　 み　　　　　　　 くにばら
　　　光に満てる　国原の
　　　はるえいごう　　　 かお
　　春永劫に　薫るかな

　　　　ゆうひあふ　　　　　　　くさも
二． 夕陽溢れて　草萌ゆる
　　　みずほがおか　　　　　たたず
　　瑞穂ヶ丘に　佇めば
　　　こぼ　　　ち　　　さ　　　　　 はなな
　　　零れ地に咲く　花菜にも
　　　　　　わか　　こ　　　　なみだ
　　　うら若き子は　涙する

　　　 み　　　　　　　　　　　　　　　　 えいよう
三． 見よソロモンの　栄耀も
　　　 の　 　 し ら ゆ り　　　　　 し
　　野の白百合に　如かざるを
　　　 ろぼう　　 はな　　　　　　　　　く
　　路傍の花に　ゆき暮れて
　　　　　　　　 ゆめ　　　　すがた
　　はてなき夢の　姿かな

　　　 はな　したた　　　　 ひ　　 みなわ
四． 花に滴る　日の水沫
　　　めい　　さとし　　　　　 かた
　　命の啓示を　語るとき
　　　のぞ　　　　 た　　 　　　　 わか　 　ほ
　　望みに溌ぎる　若き頬を
　　　　　　　　　ほし　　　　　て
　　はるかに星は　照らすなり

　　　 しんぴ 　 やみ　　 　 おとず
五． 神秘の闇の　訪れに
　　　　　　　　　りょう　 　　ともしび
　　いつしか寮の　灯火は
　　　またた　 そ　 　　　　　　われ　　 ま
　　瞬き染めて　我を待つ
　　　ちじょう 　 ゆめ
　　地上の夢よ　いざさらば

　　　 ようあいと　　　　　　　おか　　　え
六． 杳靄融けし　丘の上に
　　　　　　　　　　　　　　 はる　 　 よ
　　いづくともなく　春を呼ぶ
　　　うたやす　　　　　　　　 なが　 　く
　　歌安らかに　流れ来る
　　　こんじょう　つき　　 かげこ
　　紺青の月　影濃けれ